【取材】試行錯誤の先に見えた手応え。無添加うどん店が語るUber Eats活用術

「子どもにも安心して食べられる、無添加のうどんを届けたい」——そんな思いから始まった『かばのおうどん 横浜元町本店』。
画商出身という異色の経歴を持つオーナー・藤村さんは、素材選びから調理法まで徹底的にこだわりながら、2018 年にUber Eats(ウーバーイーツ)でのデリバリーをスタートしました。
麺の伸びや天ぷらの状態といった不安をひとつずつ解消し、スタッフ体制やオペレーションにも工夫を重ねた結果、今ではUber Eats 経由の売り上げが全体の2 割を占めるまでに。
今回は、そんな『かばのおうどん』がどのようにしてデリバリーの壁を乗り越え、お店の魅力を広げてきたのか——その歩みと工夫を伺いました。
店舗名 | かばのおうどん 横浜元町本店 |
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住所 | 神奈川県横浜市中区山下町 276-2 |
営業時間 | 平日:11:30~21:00、土日祝:11:30~22:00 定休日:火曜日(祝日の際は営業し、翌水曜休み) |
詳細ページ | かばのおうどん公式サイト Uber Eats掲載ページ |
※申し込み後に担当者がつくので、登録後も安心して始められます。(Uber Eats店舗向け公式ページ)
「かばのおうどん」創業の経緯とお店の特徴

――まずは「かばのおうどん横浜元町本店」を出店した経緯やお店の特徴などを教えてください。
私はアメリカの大学で芸術史を専攻し、帰国後は画商の道に入りました。
日本に戻ってから「どうしてこんなにアトピー性皮膚炎の子どもが多いんだろう?」と考えるようになり、無添加の食品について自分なりに研究し始めました。
それで、こちらの物件に空きが出たと聞いたときに、無添加のうどん屋をやってみようと思い立ったんです。
私が代表を務めている会社には絵画部門と、ホームページなどを作る制作部門があり、飲食は 3 つ目の事業ということになりますね。
お店の特徴は、まず無添加で、お子さまにも安心して召し上がっていただけること。それから、麺にこだわっています。
コシが強く、のどごしを楽しむ讃岐うどんが有名ですが、当店の麺にはさらに固さがあります。「人間はかむときにこそ小麦の味を感じ取れる」と考えているからです。
余熱で火を通す調理法で作っている天ぷらも人気があり、おかげさまで開店(2009 年)から 17 年目に入りました。
――「カバ」をモチーフにしているのはなぜですか?
芸術史を学んでいると分かるのですが、カバというのはエジプト文明をはじめ、古代から珍重されてきた存在なんです。
そういう知識があったことに加え、カバの曲線的な姿はうどんのイメージに合いますし、私の風貌にも似ているということで…(笑)
ロゴに使っている絵は私自身が描いたものなんですよ。

Uber Eats導入の決め手と、デリバリーならではの懸念
――Uber Eats を導入されたのはいつ頃でしたか?
7 年前(2018 年)です。もともと「麺類を扱う店なら出前はあるべきだ」という思いがありましたので、Uber Eats が日本に参入してきた当初から前向きに検討していました。
――導入を検討する際にはどのような懸念点がありましたか?
やはりお客さまのご自宅に到着したときに、料理がどれくらいの温度になっているのか、麺がどれくらい伸びるのか、天ぷらの衣がはげるのではないか、といった料理のコンディションの部分ですね。
それと正直な話、配達パートナーさんについても不安なところはありました。配達の段階で何か問題が起こったとしても、お客さまはお店の方に電話をかけてこられますので。
――そうした懸念点がある中でも導入に至った決め手は何だったのでしょう?
当時、すでに10 年ほどお店を経営していて、店舗周辺のエリアのスペックがどれくらいかというのは見えていたんです。
データを精査すると、このお店が上げられる売り上げのマックスまで来ていた。
そこで、出前というチャネルを新たに増やすことでプラスα の売り上げを上げられたら、と考えたのが一番の理由ですね。
Uber Eatsの出店に関する基本情報については、以下の記事で詳しく解説しています。
※月額料や登録料が無料なので気軽にスタートできます。(Uber Eats店舗向け公式ページ)
売上増を支える、Uber Eats出店準備と独自の業務改善

――メニューの調整や写真撮影、梱包資材など、Uber Eats への出店準備で大変だったのはどんなところでしたか?
写真に関しては、Uber Eats から頂いたアドバイスに沿って用意しました。
料理を真上から撮るというのは飲食では斬新でしたが、うちの料理は華やかな写りになったのでよかったですね。
梱包資材については、料理の温度が下がりにくく、密封状態を作れるものを特別に用意しました。
私たちはデリバリーの初心者でしたので、値段設定をどうするかなど分からないことも多々あったのですが、Uber Eats の担当者の方からいろいろと教えていただき、すごく勉強になりました。
――Uber Eats 導入によって、スタッフ体制や業務の流れに変化はありましたか?
かなりあります。キッチンに設置した iPad にオーダーが入ってくるわけですが、まずそれを確認する人がいますよね。
ただ、調理の間にその人が接客に回ったりしますから、出来上がった料理を確認するのは別のスタッフになることもある。そこで伝達ミスが起きないようなシステムを作る必要がありました。
当店では、デリバリー用の伝票を新たに作ることにしました(下記画像)。
当店のご利用は何回目なのか、注文を受けた時間はいつかなどを記入する欄を設け、「ねぎ抜き」といったお客さまのご要望などは備考欄に書くことにしています。
さらに、再確認者の署名欄も設けました。これを使ってダブルチェックを徹底するようにしています。

月商2割を占めるUber Eatsの売り上げ!「Eats厳選」獲得の秘訣と売り上げアップの工夫
――Uber Eats 経由の売り上げは、店舗全体の売り上げの何%くらいでしょうか?
月単位で見ると 20%ぐらいですね。Uber Eats が行うキャンペーン(配達手数料無料など)にはフルで参加して、それくらいの数字になります。
当店は「Eats 厳選」のバッジを頂いているので、Uber Eats の担当者と半年に1 度、コミュニケーションを交わす機会があります。
その際に、他店と比較しての状況をお聞きしたり、値段設定に関するアドバイスを頂いたり。そういうものも(売り上げアップに)活用しています。
――それ以外では、売り上げアップのためにどんなことを意識していますか?
まず、間違いが起きないようにすることですね。あとは、料理を提供するまでの時間を守ることと、袋詰めする際のコンディションをチェックすること。
汁物を下に入れ、乾きものは上にする。衛生面を考えて、商品名を容器に直接ペンで書き込むことは避ける。
今は競合が増えていますので、そういう細かいところで差別化を図ることが大事だと考えています。
――注文数や売り上げが増えたきっかけになった施策や工夫はありますか?
1 つは、この「社長(オーナー)権限カード」(下記画像)。
「たまたまオーナーが調理に入っている日に注文したお客さまは、肉や麺、天ぷらの増量といったサービスを受けられる」という仕組みです。
どうしてもデリバリーだと割高感が出ますから、こういうサービスがあったらお客さまもうれしいじゃないですか。
カードの裏面には店主からのメッセージと、SNS などの広告を載せています。これを入れ始めてからリピート率が格段に上がりましたね。

――これはお店に対する好印象につながりそうですね。
LINE の登録者も増えていますよ。あとは、セットオーダーを増やしたのも工夫の1 つです。
注文の傾向を見ていくと、お一人なのにたくさん注文してくださる方が一定数いらっしゃって、家でがつがつ食べたいというニーズがありそうだなと感じたんです。
そこで Uber Eats 限定のお得なセットメニューを作ったところ、ヒットしました。
最初の数年間は様子見していた感じでしたが、データが集まってきて、だんだんやり方が分かってきたところがあります。2 年前あたりから積極的に施策を打つようになりましたね。
Uber Eatsの店舗の売り上げを上げる方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
――先ほどのお話にもありましたが、現在「Eats厳選」を獲得されています。選出されるまでのハードルや工夫された点などはありますか?
バッジの獲得には5つの条件が必要ですが、うちはその中の1つがちょっとだけ足りない状況が続いていました。
それが注文者評価のポイントです(直近90日間で平均4.7以上であることが必要)。
条件をクリアするために会議をしましたよ。その結果、生まれたのが先ほどご紹介したデリバリー用の伝票です。
これを使うようになってからミスが減り、お客さまからの評価も上がって、その後はずっとバッジを頂けるようになりました。
Eats厳選については、こちらの記事でご確認いただけます。
Uber Eats価格設定の考え方と、デリバリーの宣伝効果
――Uber Eats での価格設定はどのように決めていますか?
通常料金の120% ほどに設定しています。最初110% ぐらいにしていたら、Uber Eats の方から「安すぎますよ」と言われまして(笑)。
それでもまだ他の店舗に比べたら安いと思います。お店で食べるよりも高い値段になってしまうのが、なんだか申し訳ない気がするんですよね。
Uber Eats の導入は、それ自体の利益より宣伝効果の方が大きいのではないかと考えるようになったのも、価格をむやみに高くしない理由です。
遠方の人にお店の存在を知ってもらい、「食べてみておいしかったからお店の方まで行ってみようか」と思ってもらえれば、そこにプラスα の利益が生まれてくる。
うちの場合は、デリバリー自体で利益を増やすというよりも、これまで届かなったところにファンを増やすという発想で取り組んでいます。
Uber Eatsと出前館の比較、そして配達パートナーとの信頼関係構築
――現在、Uber Eats 以外のデリバリーにも出店されていますか?
いまは Uber Eats 以外では出前館だけですね。以前はもっと手広くやっていましたが、注文がほとんど入らなかったり撤退されたりで、2 社だけが残った形です。
――Uber Eats と出前館の注文割合はどのような感じでしょうか?
Uber Eats が「7」に対して出前館が「3」といった状況です。
そうなっている理由は、アレンジ力の差なのかなと感じています。出前館は毎月のキャンペーンが一辺倒になっている印象があって、その期間だけを狙ったお客さまが多くなってしまっている気がします。
あと、Uber Eats が個々の店舗とのコミュニケーションに力を入れてくださっているのも、売上比率の高さにつながっているのではないでしょうか。
他のフードデリバリーとの比較については、以下の記事で詳しく解説しています。
――Uber Eats 導入当初から懸念点の 1 つだった配達に関しては、どのような工夫をされていますか?
中には自由気ままな配達パートナーの方もいらっしゃいます。たまに袋の中をしっかり確認せずに持って行こうとされる方もいるので、受け渡し時のミスを防ぐような取り組みを私たちは大事にしています。
例えば、声かけや見送り。夏場には「暑い中ご苦労様です」と、冷たいお水を差し上げたりすることもあります。
声かけや見送りにはもちろん商品確認を徹底する意味合いもありますが、信頼関係を築くことがそれ以上に重要だと思います。
私たちのお店に対して少しでも恩を感じていただけたら、配達の仕方も多少なりとも変わってくると思いますので。
――丁寧に配達してもらえれば、お客さまからのクレームの原因を1 つ潰せることにもなりますね。
デリバリーを導入する上で一番のネックになるのは、やっぱりクレームですからね。
お店にお叱りの電話が入ると、その対応に人が取られて店が回らなくなってしまいかねません。クレームを出さないことは本当に重要なポイントだと思います。
Uber Eatsがもたらした店舗の好循環と今後の展望
――Uber Eats に出店してよかったと感じるのはどんなときですか?
先ほどお伝えした通り、エリアが広がったことで店舗の認知が向上した宣伝効果の部分が大きいです。それと、スタッフの意識が上がったのもよかった点ですね。
店舗での営業だけだと、お客さまの入りが悪くても「あまり調子がよくないね」というだけで終わってしまいがち。
でも、Uber Eats という柱が新たに 1 本立ったことで、「店舗が悪かったら Uber Eats の方で頑張ろう」とか、「Uber Eats の売り上げが低いから店舗を頑張ろう」とか、そういう意識が働くものなんですよ。自然と活気も生まれます。
Uber Eats で前月に何がどれだけ売れたのかを店舗スタッフが確認するようにもなりました。
それが頭に入っていると、店舗とデリバリーで同時に注文がたくさん入ってパニックになりそうなときも、落ち着いて対処できるんです。
注文が入ったときにすぐに反応できたり、必要な容器をパッと用意できたり、そういう訓練が自然とできています。
結果として、サービス向上や顧客の獲得に Uber Eats はかなり貢献してくれていると思います。
――今後、Uber Eats を活用して取り組んでみたいこと、強化していきたいことはありますか?
デザートや、ご家族で楽しんでいただける盛り合わせのメニューを充実させたいですね。
もう 1 つは、麺のバリエーションを増やすこと。当店では固さを売りにしてはいますが、これから店舗周辺でも高齢の方が増えてくると予想される中で、少し柔らかめの麺の方が好まれるようになっていく可能性があります。
ゆで方のバリエーションを増やしていく試みはいずれやってみたいなと思います。
※難しい準備や機材は不要。すぐに始められます。(Uber Eats店舗向け公式ページ)
これからUber Eats出店を検討する飲食店へのアドバイス
――最後に、これからUber Eats 出店を検討している飲食店にアドバイスがあればお願いします。
目的をしっかり定めることが大事だと思います。
純粋に利益だけというより、宣伝効果やスタッフの教育といったプラス効果も含めて検討されるのがいいかもしれません。
幸い当店ではUber Eats が月商の2 割ほどを占めるまでに伸びてきましたが、それはデータに基づいて小さな改善を積み重ねてきたからです。
ただ、その過程では店舗運営にかかる負担が大きくなるので、改善の努力を続けられる体制を築けるかどうかは大事なポイント。
粘り強く改善の取り組みを続けられるお店であれば、挑戦する価値は大きいのではないでしょうか。
(取材・文:日比野恭三)